キース・ヘリング入門(全5回)
ポップでキャッチーなキース・ヘリングの作品はTシャツ、ポストカード、スマホケースといった身近なプロダクトを通じて親しみのある人も多いはず。そんなキースの作品の意味や生涯について知る過程で、一人のアーティストと深く向き合う方法を学び、その面白さを体感するのが本講座の目的でした。全5回にわたる講座は、4回目まではクラスルームでのレクチャーを中心にアーティスト自身について学び、最終回である5回目には山梨県小淵沢にある中村キース・ヘリング美術館を訪れて本物の作品を鑑賞するという贅沢なツアーで締めくくられました!
キース・ヘリングが作品に託したメッセージって?
シンプルな線と原色で描かれた人物や犬の絵、知っている人も多いキース・ヘリングの代表的な作品をスライドで見ながら「シンプルな構造のこの絵にはどんな意味が込められているのか」、グループに分かれてディスカッション。作品が描かれた時代背景、社会問題をからめながら、じっくりと作品を読み解き、ディープなキース・ヘリングの世界へ。
多彩なアート活動、その本当の意味を考える
作品の読み解きに慣れてきたら、次は、暗く深刻な印象をあたえる自画像や、権力者と奴隷といったモチーフが描かれた作品を見ていきます。キース・ヘリングというとポップで明るい作品の印象が強いけれどそればかりではなかったことにびっくり。そして、実は様々な作品に1980年代アメリカが抱えていた人種や性差別、HIV/AIDS、戦争といった社会問題に対するメッセージを込めて発信していたのです!
そんなキースの表現手段は多岐にわたり、彼を一躍有名にしたニューヨークの地下鉄広告板に落書きをした「サブウェイ・ドローイング」のような平面作品だけでなく、ミュージシャンとのコラボレーション、自らのアート作品を販売するPOP SHOP用テレビCMなど様々。当時の貴重な映像を見ながらのレクチャーは見応えも聞き応えもたっぷり。画一的なアートだけではなく、他分野を横断するキースの活動を知った参加者からは「キース・ヘリングが社会に対してこんなに影響を与えてきた人だなんて知らなかった!」と驚きの声も。
アーティストの生涯にふれる
わずか31歳という若さでこの世を去ったキース・ヘリング。レクチャーの後半では彼の晩年の作品「フラワーズ」にフォーカスをあて、キース自身の残した日記を手がかりに読み解いていきました。日記を読んで分かるのは彼の純粋な人物像、アーティストとしての苦悩と葛藤、そしてHIVウィルス感染によって直面した死への恐怖。ディスカッションでは「死後の世界を描いたのでは?」「亡くなる間際の作品なのにエネルギーに満ちて見える」「晩年は社会的なメッセージではなく、自分の欲求に忠実に描きたいものを描いたのでは」などキース・ヘリングを知ったからこそ語ることのできる意見が飛び交いました。
そして、美術館鑑賞ツアー
最終回の授業ではリアルにキース・ヘリングの作品を見るべく山梨県小淵沢にある中村キース・ヘリング美術館へ!4回にわたり座学でじっくりと彼の生き様、その作品に込められた意味を学んできたため、本物の作品を前に、感動がこみあげてくる参加者一同。色彩や線の表現、時代と作品との関係性、躍動感など、それぞれの作品から感じることをみんなで話し合いながら、丁寧にコレクションを堪能しました。ひとりのアーティストが作品を通じてどんなメッセージを発信し、今を生きる私たちにどのような影響を与えてきているのか、しっかりと知識を得てから鑑賞したからこそ味わえる、奥深いアートを実感しました。
受講生の声
◆もともと美術館でアートを鑑賞するのは好きでしたが、キース・ヘリングについてはあの独特な絵のイメージしかなかったので授業を受けてみて、反戦や平和など作品にこめられたさまざまなメッセージに驚きました。今後はこれまでとは違う、深い視点でキースや現代アートと向き合うことができるような気がします。(事務職・40代女性)
◆やっぱり授業で知識を得てから実際の作品を見たのが良い経験になりました。今までなんとなく自分の感覚で見ていたものが、アーティストのことをよく知ってから見ると、作品の印象や見るポイントまで変わるのだなと実感しました。(映像ディレクション・30代男性)
◆メーカーで文具や雑貨の商品企画の仕事をしていますが、グッズが有名なキースがどんな人物で、どんなことを考えてものづくりをしていたのか興味があり参加しました。人々に受け入れられるようなキャッチーな絵は地下鉄の落書きの反応から試行錯誤してつくっていったなど、思いもしない発想が面白かったです。(商品企画・20代女性)